どうぶつにまつわるエピソードを聞かせてください ミロコマチコより

どうぶつにまつわるエピソードを聞かせてください ミロコマチコより

コウモリのはなし:11話

01|「コウモリパンツ」
おはなし:髙橋美香さん(山形県山形市 30代)
聞き書き:是恒さくら

小学校2年生くらいの頃の話。当時は家の2階の、8畳くらいの部屋をあてがわれていて、窓から外に出ての屋根の上で遊ぶのが好きだった。だらしない子どもだったので、ある時タンスを開けっ放しにしていたら、引き出しの下着入れに黒いパンツがあった。それが、コウモリだった。自分はびっくりしたけどコウモリはびっくりもせず、触ってみたら暖かくて、あーっと思っていたら窓から逃げていった。飛び方を見て、コウモリだとわかった。
コウモリは逆さに寝るイメージがあったけど、丸くなって寝るんだな、と思った。怖い、というよりうっかり触ってしまった。

コウモリのはなし:11話

02|
おはなし:チビコウモリさん(山形県米沢市 40代)

11月のとても寒い日の夜でした。
夕食後、私はコタツで気持ちよくうたた寝をしていました。そこに突然ガタガタッという音が聞こえ、目が覚めました。
戸を一枚隔てた台所から聞こえたような気がします。コタツからやっと出て台所に行きましたが、何も変わった様子はありません。気のせいかなぁ…。夢だったのかもしれないなぁ…と思いながらトイレに入りました。
寒いっ!!
液状の芳香剤を倒してしまい、トイレの窓を開けっ放しになっていたことを忘れていました。
戸を閉めたその時です。
…便器に黒い何かがいる…!!
慌てて電気をつけると、その何かは便器の水に浮いています。
こわごわのぞくと、それは…手のひらに乗るぐらいのチビコウモリでした。
私はビニールを手にして、チビコウモリを便器から救出しました。身体はキュッと小さくなったままで、プルプルと震えていました。
その時、初めてコウモリの顔をじっくり見ました。豚のように上向きの鼻で思った以上に不細工です。コウモリと言うからには牙もあるのだろうと口をめくってみると確かに小さな牙がありました。でも吸血鬼にはまだなれなそうなヘナチョコな牙でした。
手のひらにコウモリを乗せたら、心臓が上下していたので慌てて暖かいタオルで暖めていたら、そのままコウモリは寝息を立てて寝てしまいました。あまりに可愛らしかったので、コウモリの寝顔を見ないかと、お向かいのアパートにいる仲良しの友人に電話しました。
友人とチビコウモリの寝顔を見ながら、深夜に「バグダッド・カフェ」を観ました。
翌日、少し日が昇ってからチビコウモリをタオルに寝かせたままベランダに出してみました。
タオルの中で少しモゴモゴしては止まり…を繰り返していたのですが、ちょっと目を離したすきに飛んで行ってしまいました。
後にも先にも、コウモリの寝顔を見たのはこれきりです。
そんなわけで、「バグダッド・カフェ」の挿入歌"calling you"を聴くと、震えていたチビコウモリを思い出してしまう…そんな話でした。

03|「こうもりの夕べ」
おはなし:半澤青空さん(山形県山形市 10代)
聞き書き:庄司亮一

夏と秋の間ぐらいの季節。小学校5年か6年生ごろだったと思います。学校からの帰り道、オレンジ色の夕日があたりを照らしていました。家の前までたどり着き、自分の長い影が伸びていった先をみると、ちょうど家の前のブロック塀のところに、母と祖母と祖父と弟が並んで立っていました。(どうしたんだろう?)と思って近づいて行って、母に尋ねると「コウモリ」と母がつぶやきました。
母と弟の間を割って入るようにして目線の先を覗き込むと、ちょうど目の高さぐらいの所に手のひらぐらいの黒いものが張り付いていました。
私は初めてコウモリを見ました。羽をたたんで丸くなってじっとしていました。
弟と私は触ってみたくなってそっと手を伸ばすと母は「触ってだめ」と嫌そうな顔でいいました。
祖母は珍しいなという感じで見ていました。
祖父は特に興味もなさそうで、すぐに家に戻って行きました。
日が沈み、祖母も家に戻り、母も夕飯の支度の途中だったことを思い出したように戻って行きました。弟も飽きた様子で家に戻りました。
私は気になっていましたが、ひとりで見ているのも嫌で弟と一緒に一度家に入りました。
でも、やっぱり気になって何度も戻って見に行きました。
あたりがすっかり暗くなって、何度目かで行ったとき、さっきまでじっと動かなかったコウモリの姿はそこにありませんでした。まだいると思って見に行ったのコウモリの姿が無かったことにちょっとがっかりしました。
明かりがともった茶の間から母が「ごは~ん」と夕食の支度が出来たことを告げました。
私はコウモリが飛んで戻ってこないかと暗くなった夜空をしばらく見上げていました。
もう一度母が呼ぶ声がしました。
ふと我に返り、私は、家の中から漂ってくる煮物のいい匂いに誘われるように戻りました。
肉じゃがを食べながら、もう一度行ってみようかなという気持ちになったけどやめました。

04|
おはなし:高橋信夫(宮城県大崎市 70代)
聞き書き:髙橋かおる

宮城県北部にある大崎市古川。その中心部には古くから緒絶(おだえ)川(がわ)という川が流れている。商店街の裏側を流れるその川は、かつては生活用水として利用され、庶民の交流の場として親しまれていた。「今では綺麗にコンクリートで塗り固められてしまったけどね。今から60年くらい前。私が子供だった頃は川の側面には石が積み重ねられていたんだよ」緒絶川の幅は狭く、底からの高さは低い。当時、傍にはうなぎ屋があって、川の水を利用した生け簀があった。「うなぎは高級品だったからね。でも夏になると庶民だって食べたくなるわけだ。そういう大人たちが川に入って、石の隙間に仕掛けを入れて釣りをしているんだ。これが見たくてね。小学校が終わると走って川に行って、パンツ一丁になって入ったものだよ」縫い針の中央に糸を付け、ぶつ切りにした太いミミズに突き刺して仕掛けを作る。竹の先にミミズの付いた針を縦に取り付け、川の壁面に積み重ねられた石の隙間に差し込むという仕組み。うなぎがミミズを食べ始め、飲み込んだところで糸を引くと、針が縦から横向きになり喉に引っかかる。「うなぎは結構貪欲なんだよ。仕掛けにかかったうなぎが親父たちに引っ張られて、ぬるっと石の隙間から出てくる姿が面白くてね。暗くなるまで川の中にいたものだ」
川へと集まった子どもたちは夕方になると家路を急ぐ。「日が暮れると緒絶川の上空はコウモリで真っ黒になるんだよ。コウモリの飛び方って鳥と違って不気味だからね。子ども心に気味が悪くて早く家に帰りたくなるんだ」何故たくさんのコウモリが、夕方になると緒絶川に現れるのか。初夏の頃にはわからなかったけれども、川に入るようになってからその謎が解けた。「緒絶川には橋がかかっていて、その下にびっしりと逆さまになったコウモリがぶら下がっていたんだ。コウモリたちの寝床だったんだよね」普段はうなぎ捕りに夢中の子どもたちも、釣れない時は飽きてしまう。「コウモリって小刻みに震えているの。気持ち悪いなぁと思いながらも子どもだからね。ついつい気になってしまうわけ。気づいたら触ってしまったことがあったんだ。ビロードみたいな感触で冷たくてね。思わず『うわぁ~』って大きな声を出してしまったよ。驚いたコウモリが何匹か飛んでいったっけな」昼間に飛んだコウモリはゆらゆらと弱弱しく見えた。

05|
おはなし:庄司亮一さん(宮城県岩沼市 36歳)
聞き書き:半澤青空

介護職をしていて、お昼からの勤務で8月中旬のとても暑い日のこと。
部屋に入ってカーテンをあけると、網戸にコウモリが片方の羽だけを広げ、もう片方は縮めた体勢でとまっていた。驚きはしなかったが、変な体勢をしてとまっているコウモリに思わず笑ってしまった。見つかってしまったコウモリはどんな気持ちなんだろうか、ドキドキしているのか、カーテンをあけられて眩しくないだろうか、と想像する。
一緒に見ていたおばさん職員は遠くから見て、「死んでるね」と言ったけど、近くから見ていたので生きていることを確認したので「いや、生きているよ」と言った。それでもおばさん職員は「いや、死んでる」と言ってきたけど、生きているとわかっているから、また「生きてるよ」と言って、言い合いになった。
コウモリはお腹の辺りをピクピクさせ呼吸させているのを見ただけで、一切動く様子はなかった。かすかに目は開いていたけど寝ているような気もした。
仕事のことよりコウモリのことが気になってしまい、職員と交代交代でコウモリの様子を見続けた。
陽が落ち始め、だんだん暗くなってきた頃にコウモリの様子を見に行ったら、網戸にとまっていたはずのコウモリはいなくなっていた。

06|
おはなし:男性(山形県中山町 70代)
聞き書き:高橋美香

自宅近くには山から町へ通じる地下水路があり、たくさんのコウモリが生息していた。水路の入り口、出口の二手に分かれる。一隊は小舟を作って、その上に薪を組んで小さな松明を作る。水路の端から水に浮かべて先に進めていくと、コウモリ達がぞわぞわぞわ、と壁が崩れるように乱れて反対側に逃げていく。水路の出口では、網をもったもう一隊がコウモリを待ち構えている。わっさわっさと面白いくらいによく捕まえた。食べるようなものでもないし、リスのように人になつくわけでもない。また、気持ちが悪いので触れる子どもは限られていた。捕まえて満足したら、すぐに離した。

07|
おはなし:田中 保奈美さん(福島県喜多方市 20代)

ある冬。仕事中の事務所にて。
気が付くと壁にはりつく黒い物体!毛むくじゃらのでかいクモだ~。うえ~っと一人で鳥肌を立てながらおびえていたら社長がやってきた。
「なんですかこれ!?」
「え、コウモリだよこれ」
社長があんまりにも知ってた風に返事をしたものだから内心「知ってたのか!!」と思いきやそういうわけではなく、いつの間にか、というかたぶんその日の午前中に入ってきたようだ。びっくりした。
このままじゃ仕方ない。ここはちいさな食料品店だし。ということで、急遽ビニール手袋を装着した社長がコウモリを捕獲する。
「うわ~あったかい。こいつ寝てるよ」
壁からはがしたコウモリを見せてもらうと、ちいさくて寝ぼけてて寒そうで、こんなことなら壁にくっつけといてあげてもいいかなあなんて思いながらも、簡易ベッド(段ボールに新聞をしいたもの)を作って社長の住む山へ送り出した。
今日、寒い冬に、田舎のまちなかへ迷い込んできたコウモリ。中学時代、学校の帰り道、自転車を漕いでいたらヘルメットにぶつかってきたコウモリ。団地に住んでいたころ、部屋だかベランダだかに侵入してきたコウモリ。もわもわの豚顔でかわいいコウモリ。そういやばあちゃんが、傘をコウモリと呼んでたなあ。
さらば、コウモリ。元気に生きろよ。

08|
おはなし:高橋美香さん(山形県山形市 30代)
聞き書き:是恒さくら

小学校4年生くらいの時のこと。夕方になると、公園でコウモリが集まって飛んでいるのを見ていた。物干し竿を振り回すとコウモリが落ちてくる、というのを本で読んで、やってみたくなった。夜の公園で、一人で物干し竿を振り回してみたけど落ちてこなかった。後から知った情報では、洗濯物の先に手ぬぐいを巻いておくと、それを餌だと思ってコウモリが寄ってくるらしい。

09|
おはなし:玉手りかさん(山形県山形市 20代)
聞き書き:是恒さくら

宮城県仙台市の、ちょっと都会の出身で、八木山が実家。八木山動物公園が地元にあり、小さい頃から動物というと「檻の中で見るもの」と思っていた。野生動物をほとんど意識したことはなく、カモシカやウサギが山の中にいることを想像できなかった。
小学校5年生のある土曜日、コウモリがかさかさっと部屋に入ってくる前触れがあって、入ってきて部屋中を旋回して飛んだ。お母さんを呼びに行って、虫取り網でつかまえて外に出した。家族が家にいたから、土曜日だと覚えている。次の土曜日にも、コウモリが現れた。毎週、家に居るのが一人じゃない土曜日に、部屋の隙間からコウモリが現れていた。その後、コウモリが出てくる部屋の隙間を埋めてからは出てこなくなった。けれど、小学校の頃にその住んでいた実家を出るまで、かさかさっという音はしていたので、コウモリはまだ家に住んでいたんだな、という気はしていた。

10|
おはなし:安部智穂さん(岩手県宮古市 40代)

陽も暮れて薄暗くなり始めたころ、森の奥にある我が家にむけて、車を走らせていました。と、トンとフロントガラスに何かが当たりました。「やっちゃた・・・。でもこんな時間に鳥なんて飛んでる?」と不思議におもいながら、車を止めて探すと、道路の上に小さな小さな何かが・・・。手に取るとそれはコウモリでした。脳震盪を起こしているだけなら、少し経てば息を吹き返すかも。でも、随分寒くなってきましたから、このまま放っておくと低体温で死んじゃうかな?と思い、手で温めながら、とりあえず家に向かいました。でも・・・残念ながら、ほんのりと感じられていた温もりも感じられなくなってしまいました。
近所に野生動物に詳しい友人Mが住んでいたので、死んでしまったコウモリを見せつつ、一緒に図鑑で調べると・・・大変珍しいチチブコウモリだと分かりました。チチブコウモリは、生態系が健やかな森にだけ住んでいるコウモリだということも知りました。一生懸命生きていたのに本当に可哀想なことをしてしまった・・・。こころが痛みました。
大変貴重なチチブコウモリだったということで、友人Mが、コウモリの研究をしているE先生に連絡をし、E先生からコウモリのお話をいろいろと聞くことができました。「すごい!コウモリって!!」すっかり心を奪われました。
それまでも飛んでいる姿はよく見ていましたし、餌をとるときに発するチチ、チチという音も耳慣れた音でした。でも、コウモリについて関心がなかった私。けれどこの事件がきっかけで、コウモリのことを知りたくなり、図鑑を買ったり、観察会に参加したりするようになりました。知れば知るほど、不思議で素敵な森の隣人であることが分かりました。
夕涼みをしていると、ひらひらとした特別な羽ばたきで、思いがけないほど近くを飛んでいるコウモリを見かけます。チチ、チチという音も聞こえてきます。この小さくて不思議な生き物が、健やかに暮らせる森でありますように・・・。コウモリは、ただ一生懸命生きているだけなのでしょうけれど、私は、その存在に、ひそかに勇気をもらっています。
ありがとうコウモリ!
ところで、私の車にあたって死んでしまったコウモリは、まわりまわって(どこをどうまわったのかはしらないけれど)、今剥製になって地元の博物館に展示されています。貴重なコウモリだし、このコウモリが住んでいたのだから故郷の森は豊かなのだと子どもたちにも教えられると説明されました。でも私は複雑な気持ちです。生命を奪われた上に、剥製として展示されるなんて・・・。なんだかダブルで申し訳ない気持ちです。あのコウモリはきっと静かに森で眠りたかったんじゃないかな・・・。
ゴメンね コウモリ。

11|
おはなし:安齊詩央里さん(山形県山形市 21歳)

窓のサッシになにか黒い塊が付いているなと思いながら冬を越し、春先の大掃除で黒い塊が冬眠のままご永眠なさったコウモリだと判明した。やすらかな顔だった。
保育園の頃、友だちが虫カゴに入れたコウモリを体育館で放し、騒然となった。
ベトナムの山寺を観光した際、洞窟の内の仏像を眺めながら鳥のような鳴き声が絶えずするのでなにかと思ったら天井にすみついていたコウモリの群れだった。

どうぶつにまつわるエピソードを聞かせてください ミロコマチコより