01|「ヘビ屋敷の大蛇」
おはなし:伊藤利彦さん(山形県山形市 60代)
聞き書き:古田和子
みんなに信じてもらっているかどうかはわからないけど、私の家には大きな大きな大蛇が住んでいたんですよね。
きっとアオダイショウがあそこまで大きくなったものなんだろうとおもうんだけれども。4m近い大蛇で、うん、まあ、みごとなのがいました。
その大蛇は、明治に私のおばあちゃんが、お嫁さんに来たころからいたって言われててね。
ここに蔵があって。そこに池があって、春の5月の連休になるとこんな大蛇が現れて、道路を塞いじゃうのね。そうすると道行く人が、ぎゃ~~~!! っていうのが、何回経験してるから、やっぱりあの大蛇はいたんです。
おそらく、大蛇は、蔵の下に住んでたんじゃないかって思うんです。以前ね、蔵を改築するために、床を全部取り払ったんですよ。その解体作業のときに、蔵の底の様子を見ることがあったんですけど、昔の蔵をつくるときって、いまはほら、ひとつのフラットにしなきゃいけないわけですよね。コンクリートで全部整えて。でも、昔の人ってすごいなって思ったんですけど、全部石なんですよ。140個の石が組まれてて、それを地面から同じ高さの石を、形はみんな違うんですよ。どっからか探したり、少し削ったりしたのか分からないですけど、140個くらいの石がこの下に全部あったんですね。それで、石と石との間には空間があるわけですよね。そこにきっといたんでしょうね。だから冬でも割とあったかいし、というふうな。必ず出てくるときは蔵のあたりからでてきていましたしね。
でももうこの大蛇は20年以上も見ることはないんですけど。おそらく、80年か100年くらい生きたんじゃないかな。ヘビの寿命ってすごく長いから。
そんなヘビがいたことは事実。でも、2mくらいのやつなら今でもね、たまにいるんですけれども。
02|
おはなし:ナカムラクニオさん(東京都杉並区 40代)
おたがいのシッポを食べている2匹の蛇を見た。
しめ縄のように、ぐるぐる回っていた。
場所は、山形の山寺。
「閑さや岩にしみ入る蝉の声」と詠んだ芭蕉の句で有名な寺だ。
季節は、ちょうど真夏。
蝉の鳴き声が本当に岩にしみ込んでいるような暑い日だった。
滝のように流れる汗をかきながら奥の院まで登って、降りてくる途中の岩場にその「蛇のしめ縄」がいた。
これは、いわゆる「ウロボロス」とも言われるやつか?
死と再生の象徴といわれる始まりも終わりもない完全な物語のようだ。
10分ほど、じっと見ていたが、いつまでもおたがいを食べ終わらないので、しばらくして山を降りた。
山門近くにいたおじさんにそのことを聞いてみた。
「蛇のしめ縄みたいなものを見ましたよ!」
「ああ、蛇の神様だね。福蛇だよ」
「福蛇?」
「福を呼ぶんだ。ラッキーだよ」
福蛇なんてはじめて聞いたけれど、きっとこの辺ではよくあることなのだろう。なんだかうれしかった。
それ以来、一度も蛇は見ていない。
しかし、神社でしめ縄を見るたびに、あの真夏の日に山寺で見た蛇を思い出す。
「あの蛇は、いったい何だったのか?」
始まりも終わりもない福蛇の姿が今も、メビウスの輪のようにぐるぐると頭の中で廻り続けている。
03|
おはなし:玉手りかさん(山形県山形市 20代)
聞き書き:安達奈緒子
私は高校卒業後にフリーターをしながらバンド活動をしていた。旅行資金を貯めるため工場でのバイトを始めた。早朝の電車にゆられ、歩く人よりも車通りの多い殺風景な工業地帯の道を歩いて通った。毎日、毎日。変わらない風景を見ながら。
そして、変わらない風景の中でいつしか目印となるものを見つけて歩くようになっていた。ガソリンスタンドの窓辺にいつもサボテンが置かれてある、とか。そういったものをひとつひとつ確認しながら歩いていた。
そろそろ春の気配を感じる冬のある日。道端にあった雪の上にヘビがいることに気づいた。突然現れたそれは、まったく動かず雪の上にいた。死んでいるのか? おもちゃ? はたまた冬眠中…? とても気になったが、遅刻してはならない! と、通り過ぎてしまった。
次の日も、そのヘビらしきものはそこにいた。やはり死んでいるのか…わからないが、何か目印を確認しながら歩いていた日々にその「ヘビ」が加わった。
次の日も、また次の日も。「ヘビ」は同じ場所に居続けた。
もうだいぶ雪も解けて暖かくなってきた4月1日。朝、工場へ向かう途中、あの「ヘビ」がいるところへ来ると、それは忽然と姿を消してしまっていた。冬眠から目覚めたのか?ただのおもちゃで、誰かが片づけてしまったのか?
毎日、目印としていたものが急にいなくなってしまった。
「あれはいったいなんだったのだろう…」
不思議な出来事だ。
04|
おはなし:佐藤さん(宮城県加美町 50代)
聞き書き:髙橋かおる
今から50年くらい前、私が小学校5、6年生だった頃のこと。家の裏山にカブトムシを捕りに行った。いつものように木に登り、立派な角の生えたオスのカブトムシを探していると、ゆらゆらと不自然に揺れる枝が目に入った。「あれ、風が吹いていないのにおかしいなぁ・・・」と思ってよっくど凝視してみると、今まで見たことがないほど大きなヘビだった。ヘビが大の苦手な私は、気づかれまいと声を殺し一目散に逃げ帰った。「驚き過ぎて背中で木から駆け下りたんだよ。今思えばほぼ落下してたんだろうね。家に着いたらあっちこっち擦り傷だらけだったよ」
それから数年経ったある日のこと。「中学1年か2年の土曜日の帰り道。当時は週休二日制じゃなかったからね。土曜日は午前授業だったんだ」早く家に帰って昼食を食べようと急いで自転車を走らせていると、道の真ん中にヘビが横たわっていた。一瞬驚きそのまま通り過ぎようとしたけれど、どうも様子がおかしい。良く見ると真っ白な腹を上に向けて死んでいるようだ。「いつも脅かしやがって。よぉし今日はじっくり近くで見てやる」と、普段は近づくことの出来ないヘビを観察してみようと自転車をとめた。恐る恐る近くに寄ると、やはりヘビは全然動かない。死んでいることを確認し、まじまじと見てみると、後ろの方に2本の突起物があることに気が付いた。「んっ? ヘビに足はないはずだよな」鳥の足のように3本指で爪もある。「誰かがいたずらして鳥の足でもつけたんだろうか」と思ったけれども、ヘビの皮の色と同じ白い色をしていて、うろこのような模様の継ぎ目が自然に繋がっている。「足の生えたヘビに間違いない」そう確信し、家に帰って得意げに話をすると父親に「馬鹿者! ヘビに足があるはずがないだろ」と怒られてしまった。「そんなはずはない。確かに足が生えていたんだよ」と言ったけれども誰も信じてくれなかった。「もう一度見てこよう」と自転車を走らせ、ヘビの元へと戻ったけれども残念なことに姿が見えなくなっていた。「カラスにでも持っていかれたのかもね。近くを探したけども見つからなかったんだ」その後、国語の授業で『蛇足』という言葉を習った。「意味を知った時は複雑だったなぁ。私はヘビに足があることを知っているからね」
05|
おはなし:男性(山形県山形市 30代)
聞き書き:安達奈緒子
今年のさくらんぼの時期かな。家にあるさくらんぼ畑にでっかいヘビの抜け殻が落ちてて。
最初生きてるヘビかと思ってびっくりして。でもよくよく見たら、抜け殻で。頭の形もちゃんとわかるぐらい、きれいな抜け殻だった。脱皮したばっかりだったのかも。2mくらいはあったよ。
この抜け殻で、いとこの子ども(小3)を驚かせてやろうって考えて、軽トラに抜け殻乗せて家に持ち帰ったんだよね。抜け殻は、家の小屋の玉ねぎ置いてるコンテナのところにまぎれさせて置いたんだ。
小屋での作業中、それに気づいたうちの母ちゃんがまずびっくりしてたっけ。
次に近所のおばちゃんが家に来て、抜け殻を見つけて、ぎゃー! って。「なんでこんなとこにヘビー!」って。抜け殻ってわかって、後で怒られたけど。
結局、ターゲットのいとこの子供は全然驚かなくてさ。残念だったなー。子供って案外そういうもんなのかな。
06|「家の中でマムシが…!」
おはなし:菅野守さん(山形県山形市土坂 70代)
聞き書き:安達奈緒子
マムシな、昔はいたっけけど、今はいないな。見つけたときは一回も逃がしたことないよ。見たらすぐしとめんだ。マムシはとった瞬間、ぴーっと皮むいてとってやんだ。
西山によ、ゼンマイ採りに行ったっけのよ。マムシいだっけから、そん時はゼンマイ入れてたビニール袋さ一緒に入れて、家さ持ち帰ったっけのよ。まず、昼飯食わんなねから、食ってから(マムシを)始末してやっかと思っていたらば、その袋、少し破けて穴開いったんだっけなぁ。袋から逃げてしまってたっけのよ。うちのかぁちゃんが「110番したらいいべか、警察さ届けたほうがいいべか」って騒ぐからなぁ、「馬鹿なこと言うな! そのうち出てくっから!」って言ったんだ。
それから、夕方に採ってきたゼンマイ揉んでいだらば、近くさひょろひょろってマムシ出てきたっけ。「なんだこのやろ、こごにいだのか!」ってな。マムシって気強いから、逃げねんだよ。あったかい時だど、伸びてるけど、寒い時だととぐろ巻いてんだょ。普通だと見つけたら人は逃げるけどな、俺は構わねんだぁ。マムシから咬まれないようにはしないといけないけどな。
07|
おはなし:髙橋かおるさん(宮城県大崎市 30代)
聞き書き:古田和子
それは、梅雨を迎えず夏になった今年7月のことです。例年よりはるかに暑く、人も獣も森も、みんなうだるような暑さが続いていました。
そのせいでしょうか。勤務先であるダムの河口付近に1匹のマムシが現れました。きっとカッラカラの身体を癒しに危険を覚悟できたのでしょう。普段なら現れるはずのないところまできたのですから。
しかし、タイミング悪く、私の同僚に見つかってしまい、近くに落ちていた焼酎の空瓶に入れられてしまいました。
その瓶を持って仕事場に戻ってきた同僚は、自慢げに焼酎の瓶に入ったマムシを私たちに見せてきました。私は、マムシがしょんぼりしているように見えました。もちろん、へびに表情なんてないのですが、何故だかそういうふうに見えたのです。
いつもは穏やかな職場も突然起きた事件に大盛り上がりで、「さて、このマムシをどうしようか?」と話し合いが始まりました。
「山の上にヘビを買い取ってくれるところがあるみたいだから、そこに売ったらどうだろう?」
「ちょうど焼酎の瓶に入っているわけだし、お酒を入れて、マムシ酒にしたらいいんじゃない?」
そういった言葉をヘビは理解しているようで、元気をなくし、うなだれた様子でした。
「逃がしてあげたらいいんじゃないかしら」
わたしは、ヘビの様子を見ていいたら、自然とそのような言葉を発していました。
みんなも、たしかに悪いことはしてないし、少しはなれたところに逃がしてあげよう、と賛同してくれました。
そしてマムシは無事に山に帰っていきました。
08|
おはなし:斉藤栄輝さん(山形県大蔵村肘折 20代)
聞き書き:鈴木淑子
うちの村には、大蛇伝説がある淵があるんだけど、そこにはやっぱり、よく蛇が出るんですよ。小学校3年生くらいの頃かな、そこでものすごく大きな蛇の抜け殻をみつけたんですよ。蛇って身体をこすりつけながら脱いでいくでしょ。だから抜け殻は草が絡み付いていて、湿っていた。破れないようにゆっくり慎重に外して持ち帰ったんです。
その抜け殻はほんとに、異様に大きかったな。うちの茶の間のテーブルから、はみだすくらいだったからね。2m30cmくらいかな。たぶん青大将だと思う。蛇の抜け殻は、見つけるといつも持ち帰っていて、母親に「捨ててこい」って怒られるんだけど、あのときは、さすがのお袋も驚いてたね。ばあちゃんなんて、店に来たお客さんにその抜け殻みせて「これが伝説の大蛇の子孫だ」なんていったりね。
だからどうしても「抜け殻の主」をみたくなって、夏休みじゅうずっと淵に通ったんです。ポテトチップの筒に卵を入れた罠をつくって、あちこち置いたり。子供用の鎌で草を刈りながら、蛇がいそうな岩陰のところを探したりね。昔から虫取りは得意なんですよ。藪のなかで息を殺して静かにしているとね、生き物たちの音が聞こえるんですよね。ガサガサって。小さな蛇はたくさん捕まえたけど、結局その夏、伝説の蛇は見つけられなかった。
だから抜け殻は、ダンボール箱にいれて大事にとっておいたんです。すごい宝物ですよね。でもある日、箱を開けたら、その蛇の抜け殻がなくなったんです。カマドウマって虫、知ってます? 大きなやつが2~3匹いて、そいつらがぜんぶ食べちゃったんですよね。それはもうショックでした。それでぱったり、蛇探しはやめたんです。
09|
おはなし:佐藤さん(山形県新庄市 60代)
聞き書き:荒川由衣
ある夏の日、堤防の草刈りをしていると、傾斜になっているところにヘビが!
とぐろを巻いて、こわごわよく見たら頭が二つ。二匹のヘビが絡み合っていた。
嫌いだからすごく怖くなって、ヘビがいるところは草刈りしないで帰った。
あれはたぶん交尾してたんだろうな。シマヘビみたいだった。とにかく怖かった。
雨が降っているとヘビは出てこないから、後日雨の降る日に出向いて残りの草を刈ったの。
10|
おはなし:男性(山形県中山町 80代)
聞き書き:高橋美香
中山町には岩屋という集落が在り、そこを中心にしたおなかま文化(口寄せを生業とする巫女)で有名。そこの昔話。
昔とある村人の枕元に、男神様が立った。自分が祀られている山の上は、なかなか女子が通らないので非常につまらない。もっとよく見たいので、中腹に祀って欲しいとのこと。また、山に住まう蛇(白蛇?)は自分の化身であるため、出会ったら赤飯を炊いて奉納するようにと命じられた。その地域の近隣で育った男性は、道で蛇が立ち往生している時など棒でつつこうとすると、家人から「何もしなくても一人でに動くから、いじめたりしてはいけない。カミサマである」と口をすっぱくして言われた。(となり町で育った別の男性は特にそういった話はなく、振り回して遊んだりしたと別人談)
11|
おはなし:玉手明美さん(宮城県仙台市 50代)
聞き書き:玉手りか
私の生まれたところは宮城県の田舎で、小学生6年生の頃まで、茅葺きの家に住んでいました。家は大きな木に囲まれていて、ニワトリやブタを飼っていました。囲炉裏に黒電話、茅葺きと言っても、私が生まれた頃はすでに白黒テレビはありましたよ。両親は農家で日中は家にいなかったので、家の近くの川でザリガニ釣りをして、遊んでいました。魚肉ソーセージを糸に括り付けて、それをザリガニがハサミで掴んだところで糸を引き上げるんです。タイミングがけっこう難しい。通りすがりの近所の高校生が手伝ってくれたりしました。
今でも覚えているのが幼稚園のころのこと。月曜から金曜まで、3キロほどの道を歩いて通っていました。今思うと遠いですね。車も無かったので、祖母が歩いて送り迎えしてくれました。長い髪を団子にして、もんぺに手ぬぐい、腰を曲げて歩いていました。このあたり一帯は平野で、ずっと田んぼが開けていて、山も森も近くになく、自然豊かという印象はありませんでした。昔々は海だったそうです。
ある日、幼稚園の帰り道をおばあちゃんと歩いていたら、田んぼと田んぼの間の、あぜ道くらいの幅の道の真ん中で、同じクラスの男の子が、どうやって捕まえたのかヘビの端っこを掴んでぐるぐる回していたんです。それがもう怖くて、怖くてずっと覚えている。どうやって通り過ぎたのか覚えて無いけど、おばあちゃんの手を握っていました。無我夢中だったので、覚えていませんが。おばあちゃんのことを思い出すと、昔のお百姓の女の人は強かったなあと感心してしまいます。
12|
おはなし:菅野勲さん(山形県大蔵村肘折 60代)
聞き書き:鈴木淑子
マムシ捕る時は普通、棒持って歩くんだけども。生け捕りする場合、棒で押さえるんだ。棒持って、叩いて殺してくる。山菜採りとかキノコ採りとかって行く時期だ。マムシ、2本捕まえたことがある。1本捕まえて、もうちょっと行ったらもう1本いて、捕まえたことがある。黒マムシは焼いて、粉にして冷凍庫に入れて、疲れた時とか風邪引いた時は、それつまんで飲む。医者の薬だって効くか効かないかわかんねぇ。飲んですぐわかるのは酒くらいだ。
13|
「ヘビの話をする、肘折の夜」
おはなし:菅野勲さん(山形県大蔵村肘折 60代)・柿崎雄一さん(同 50代)
聞き書き:鈴木淑子
ゆういちさん「マムシの肝は食うの?」
イサオさん「マムシの肝は食うけど、ちっちゃくてね。」
ゆういちさん「同級生のとこ遊びに行ったらばよ、マムシの頭からびーっと裂いて、生きたの。こうやってつるって飲むの、見たことある。生きてるマムシの、皮を剥ぐのよ。びーって頭から。ばちって口割って。肝をひとさしゆびでつねってとって、つるって飲むのよ。」
イサオさん「胆のうあるんだよな。豆粒くらいの。」
14|
おはなし:柿崎雄一さん(山形県大蔵村肘折 50代)
聞き書き:鈴木淑子
小松渕の上の、今崩れてるところが、玉石の壁だったんですよ。壁っていうか、要壁だったんですけど。玉石が無くなっているところに、ヘビ玉ってわかります?ヘビがぐじゃぐじゃってなってる、そういうのがいて。お湯の測定に、石抱温泉に行った時。その頃はまだダムの道路がなくて、歩いていくんですけど、川の上に大きい柳がせり出していて、そこにうろがあって。ガサガサガサガサって、その中にいた。川の方に木がせり出していて、そこのうろの中に何匹いるかわかりませんけど、コダイショウとか、一種類じゃなかった。いろんなヘビがいて。20年近く前ですかね。2000年前後のこと。
15|
おはなし:菅野勲さん(山形県大蔵村肘折 60代)
聞き書き:鈴木淑子
マムシはけっこう、自分でも加工して、焼酎に入れたり、粉にして食べたり飲んだりしてるから、何回か捕まえたことはある。普通、捕まえる時は真剣に捕まえるんだけど、最近ずーっと捕まえてなかったの。去年、マムシいればいいけどなぁと思いながら、全然いなくて、やっと見つけて、あっこりゃよかった! と手で押さえた。葉っぱで見えなかったのよ、頭が。蛇の首根っこを、きゅーっとこう掴めばよかったんだけど、下の方捕まえたから回ってきて、親指、噛まれた。そんなに痛くなかった。人の話だと、マムシに噛まれると激痛が走ってすごい痛いというけど、ただチカッていうだけで。蜂が刺さったよりは全然、痛くなかった。
黒マムシと赤マムシといるんだよ。だいたい、赤いのはオスで黒いのはメスだよ。普通は赤マムシは生かしてくんのよ。黒マムシの場合は殺してきても良かったのよ。遠くの山に行った時は、生かしてくるのは大変だから、だいたい叩いて殺してくるのよ。その時は近かったから、生かして捕まえようとして、噛まれて。こりゃ大変だって。紐でぐるぐるっと結んで、車運転してうちまで来たのよ。途中で、救急車呼べってかかぁさ電話して。救急車じゃなくてドクターヘリが来た。救急車来るよりドクターヘリの方が早かったからな。ドクターヘリの先生が女の先生だった。先生が、紐をぐるぐるっと巻いたところを解こうとした。解く前に、血清を打つとかマムシの毒を抜くとかできねぇのか、と言ったわけよ。そしたら、「私、医者です」って言われた。縛ってるほうがかえって悪いって言われた。
病院さ行ったって、ただ両方から点滴しただけで。ただ水分多くして、尿で下す、というんだ。マムシの血清っていうのはあるんだけど、副作用がすごくて。よほど泡吹いて危ないっていうなら使うけど、俺はピンピンしてたから。だから薬使わないで、何にもしねぇで一晩だけ様子見ましょうって言われたけど、だんだん腫れてきたからもう一晩、また腫れてきてもう一晩って。腫れが引くところが見れなきゃ帰せないっていうから、結局、一週間いた。縛ってこなかった方がかえってよかったのかな。今でも縛った側、違うんだな。だいぶ良くなったけんど。冬なんてこの指だけ冷たくて。ここの指だけ押さえて、ここだけこう後遺症残ったみたいな感じだから、なんもしなかったほうが後遺症残らなかったのかな。
16|
おはなし:菅原ちぐささん(宮城県仙台市 30代)
むかし、父方の祖母“気仙沼のおばあちゃん”が生きていたころのこと。
仙台に住んでいる私たち一家は、お正月とお墓参りに年に数回気仙沼の本家に帰省をしていました。母は着くなり一日中掃除、父はパチンコ、祖父は無口で新聞かテレビしか観ておらず、私は必然的におばあちゃん子になりました。
カサカサのおばあちゃんの手はなんともいえない暖かさで、手をつないで近所の商店についていく事が私の最上の楽しみでした。スーパーで必ず買ってもらうのは、サメの心臓とキャラクターモノのふりかけ。どちらも私の好物でした。
私はおばあちゃんに甘えきっていたので、たまに年寄りには答えられないような話題を振って困らせたりしました。
「おばあちゃん、UFOって知ってる?」
「ばあちゃんには分からんなあ」
「えー! 知らないの」
「うーん」
たいていこんな調子で会話は続きません。しかし、ある日、
「おばあちゃん、幽霊見たことある?」
「ばあちゃんには分からんなあ」
「じゃあ、白蛇は?」
「うーん」
「そっか」
「ばあちゃんの財布にいるよ」
「えっ?!」
おばあちゃんのお財布を見せてもらうと、そこには蛇の抜け殻が入っていました。暗い色で地味なそれは、透き通ってピカピカしっとりと落ち着いた艶があり、とても美しい宝石のように感じられました。私は両親に物をねだる事を禁じられていたので、欲しいとは言えませんでした。しかしおばあちゃんはそれを千切って私にくれたのです。私はうれしくておばあちゃんに抱きつき、蛇の抜け殻のかけらを自分のお財布にしまい宝物にしました。
それから数年後、おばあちゃんは病気にかかり天国へ行ってしまいました。おじいさんはその瞬間にびっくりして顎がはずれたそうです。お通夜には青森県のイタコのような“オガミヤサン”と呼ばれる一行が訪れて、言葉といえないお経のような口調でおばあちゃんの最期の言葉を告げておじいさんを泣かせました。
あれから数十年が経ち、3・11の津波で本家は跡形もなく無くなってしまいました。蛇の巣は無事だったのかどうかわかりません。結局私は気仙沼で生きている蛇を見ることはできませんでした。
しかし、蛇の抜け殻を触ると、今でも手にぬくもりをリアルに感じるのです。
カサカサしてしっとりしていて、生きていないのに生きている、おばあちゃんの手のような、蛇の抜け殻。
17|
おはなし:菅野勲さん(山形県大蔵村肘折 60代)
聞き書き:鈴木淑子
ヘビで面白かったのは、営林署の育苗の研究所があって、そこで研究してた時、外で、がさがさがさって。そして見たれば、外側の窓の桟のところ、蛇がふたつ絡まって交尾してたの。ぐるぐるぐるっと2本で絡まって、下に落ちてきた。それでも離れないで、2本でぐるぐるぐるってからまって。
1m以上あった。それが離れないんだ。
18|
おはなし:庄司亮一さん(宮城県岩沼市 30代)
聞き書き:是恒さくら
子どもの頃、小学校に上がるか上がらないかの頃の話。
実家は、宮城県の角田市という水田地帯の田舎の方にある。実家がある地域は、田んぼの間を造成して住宅地にしたようなところだった。辺りには、用水路に家庭排水が混ざっているようなどぶがあちこちにあった。子どもの頃はそのどぶで、水中生物とかザリガニ釣りをして遊んでいた。
ある時友達と二人で歩いていると、十字路の道路のど真ん中にヘビがいた。自分も友達も小さかったので怖かったけど、そのヘビが道路の真ん中にいたので、近寄ると突然飛びついて来るじゃないかとビクビクしていた。近寄れないので、友達と二人で空きカンを転がしてみたり、ものを投げてみたりしたけどヘビは動かなかった。しばらくして近づいてみたら、ヘビの首からは血が垂れていて、死んでいた。そのヘビはそんな大きくなく、赤と黄色のまだら模様だった。ヤマカガシだったのかもしれない。アカヤマ、と地元では呼んでいた。死んでいると分かってから、友達と二人でヘビを棒でつついて帰った。子どもの頃はヘビがいっぱいいた、という記憶がある。カエルを飲み込むところを眺めていたこともある。
19|
おはなし:水沼とく子さん(宮城県丸森町 80代)
聞き書き:庄司亮一
うちの田んぼは川沿いにあって土手が崩れない様に石垣が積んでありました。冬にそこにヘビが入って冬眠するんでしょうね、春になるとその石垣の所でよくヘビを見ました。
田の草取りをしていて一度に3匹いたのを見た時は見慣れていた私もびっくりしました。あまり好きではないのでいつも近寄らない様にしていたんですが、よく見るとその3匹はクチサビ(マムシ)だったのです。そこへちょうど近所のトシ子ちゃんが通りかかったので教えてあげました。トシ子ちゃんはクチサビを捕ってよく売りに行っていたのです。
「トシ子ちゃん、ホレ、ここさ3匹もクチサビいだど」というと、トシ子ちゃんは目の色を変えて「とくちゃん、うごがねでみでろよ」といって一度家に戻ると竹の棒を3本もってきました。竹は先が割られてあり、トシ子ちゃんはそこに縄紐を輪っかにしてかけ、蛇の頭を輪の中に通しました。そしてギュッと縄を引っ張り、蛇の首のところをで締め付ける様にしてあっという間に3匹とも捕まえてしまいました。私は見ていましたが、よく噛みつかれないなと思いました。普通の蛇は逃げますがクチサビは逃げないで挑みかかってくるんです。そこをうまく捕まえるものです。クチサビは毒があり、噛まれたらすごく腫れるんです。
売る際には生きたままの方が値段がいいので、必ず生け捕りにしていました。見せてもらった事があるんですが、腹の中に入ったものを出すために焼酎の瓶にいれて藁で栓をして、餌を与えずしばらく置いておくんです。当時一匹5000円ぐらいで売れると聞きました。相馬のお祭りのときなんか出店でよく売られてましたね。
トシ子ちゃんはその時も竹に結わえつけられニョロニョロからみつくクチサビ3匹をもって、ニコニコしながら「いかった、いかった」といって歩いて行きました。クチサビの模様がお金の形をしていたのをよく覚えています。
20|
おはなし:伊藤利彦さん(山形県山形市 60代)
聞き書き:庄司亮一
私のうちは農家で長年鶏を飼ってきました。鶏の卵やネズミを狙うヘビは家の周りたくさんいて、30年前ぐらい前はヘビ屋敷と言われるくらいでした。日常の風景の一部になっていたんですが、今ではほんとに見なくなりましたね。こんなにいなくなってどうなっているんだというくらい。田んぼが減り餌になるカエルなどがいなくなったからでしょう。
昔はあまりに普通にいるもので、家の中にいても特に驚きもしなかったぐらいです。息子が一歳ぐらいのとき、寝かせていた布団の枕元に2メートル近い青大将がとぐろを巻いているのを見た事もあります。
そう、ヘビに睨まれると動けなくなる話、ヘビの魔性っていうんですかね、あれはホントにそうで、ちょうどその場面に出くわした事があります。
それも家の中でした。奥の座敷でヘビがネズミを捕えようとしていたんです。ネズミは必ず部屋の四隅に沿うようにして逃げるんですが、部屋の角の鴨居の所で動けなくなってしまったのです。ヘビは壁をつたってゆっくり近づいていき、ネズミまで2mぐらいの所でピタッと静止するとじっとネズミを睨んでいました。ネズミは震えて金縛りにあったようになって動けません。それから、5分くらいでしょうか、じーっとお互い動かないんです。私もそれをじーっと見ていました。
やがて、ゆっくりヘビはネズミに近づき、そしてスーッとじわーっという感じでネズミを口のなかに入れていくんです。とっさにネズミも逃げられそうなものですが、じわーっとゆっくりゆっくり飲み込まれていきました。見ていた私も愕然として、ヘビにはやはり不思議な力があるのかと思いましたね。
うちの鶏の卵もよく狙われて、じわーっと呑みこまれそうなところを何度も見つけたことがあります。ちょうどそれを見つけたときはヘビの首をつかまえて口に手を入れて卵をじわーっと取り出します。平気ではありませんが、貴重な卵ですからね、そこは見逃せません。
21|
おはなし:菊池大二郎さん(山形県山形市 40代)
聞き書き:玉手りか
僕が芸工大生だったころの話。一期生だったので、20年ほど前のことになる。「ヘビ」は昔から見つけると捕まえて殺していた。なぜっていう理由もないけれど、おばあちゃんが嫌っていたとかそのくらいの理由だった。習慣のなかでいつのまにか悪者扱いしていた。
ある日、校舎の近くでマムシを見つけた。「あっ」と思うや、すぐさま木の枝で押さえた。ヘビを捕まえること自体は特別ではなく、恐怖もなかったが、マムシは他のヘビと違って攻撃的だ。逃げるどころか、絶えず噛み付こうとする。友達に押さえるのを代わってもらって、急いで校舎に戻って針金が締まるしかけを作った。そしてマムシを捕獲した。40センチもあり、マムシにしては大物だ。
まっ先にお金にしようと考え、七日町にある養蛇所という蛇の漢方薬を扱う店に電話したが「今そういうのやってないね」と断られた。仕方なく、マムシ酒の作り方を調べて友達と作った。お腹のなかのものをきれいにするため、ビンに死なない程度に水を入れてやり、一ヶ月ほど生かした。ビンに入れられたマムシは恨めしそうに、下の方でくたっとなりながらも、蓋を開けるたびカッと首を上げて襲いかかってこようとする。恐るべき生命力だ。
最後は水を捨て、ビンに焼酎を満たして窒息死させた。カーッと、焼酎のなかでのたうちまわりながら、マムシは息絶えた。
それから一年ぐらい経ったころ、飲もうとして蓋を開けてみたが、臭くて飲めたものではなかった。腐臭だ。薄く色づいたその液体は結局飲まずじまいで、大学の卒業とともに、学校に置いて来てしまった。忘れ去ったあのマムシのビンは、どうなったのだろう。いまもどこかを睨んでいるのだろうか。
22|
おはなし:水沼くにさん(宮城県丸森町 90代)
聞き書き:庄司亮一
家にはウサギを10匹ぐらい飼っていました。それは正月にお雑煮に入れたり、何か特別な日のご馳走のために飼っておくのです。子供の頃、そのウサギの餌となる草を刈りに行くのが私の役目でした。
五月頃だったでしょうか、その日も学校から帰えるとすぐ背中に大きなかごを背負って田んぼの畦に草刈りにいきました。
すぐにかごが草でいっぱいになって、トコトコ畦を歩いて帰える途中、足先に何かふれたのに気付きました。黒っぽい丸い物が見えました。(なんだ?)と思うのもつかの間、その丸い物の真ん中がムクムクと伸びあがったのです。
すぐにヘビだとわかったのですが、背中がゾワゾワッとして足がガクガクして、どうしたらいいのかわからなくなり、動けませんでした。そうしているうちに伸びあがった蛇の頭がこっちを向いて、ペロペロぺロ~と赤い舌をだして私を見ました。とっさに私は「ギャーっ」と田んぼに響き渡るぐらいの声で叫び、ヘビを飛び越えて夢中で畦を走って逃げました。しばらく走ったところで前につんのめるようにして転んで、背負ったかごの中の草が頭の上にどさっとかぶさってきました。私は悲しいのやら怖いのやらで大声で泣いていました。
田の草取りをしていた人たちが何事かと心配して寄って来ました。ヘビがいた事をいうと「危ないから気をつけるんだよ」といってお世話をしてくれました。
10歳ぐらいだったと思います。もう90歳になるのにあの時に見た、ヘビの赤い舌のペロペロ~は今でもはっきり憶えていて、思い出すたびに背中がゾワっとします。
23|「すし詰めひやけサロン」
おはなし:菊池大二郎さん(山形県山形市 40代)
聞き書き:高橋美香
ヘビなんてそんなに珍しいものじゃないから、一匹や二匹見てもどうってことはない。ただ、一回ぎょっとしたことがあって。
今時の川は、コンクリートで護岸になっていることが殆ど。水抜きのために塩ビのパイプが等間隔に埋めてある。
いつものように川へ釣りをしにでかけた。なんとなく天気のいい日だったので、後ろを振り返ったら、その塩ビパイプから、ヘビが「でろん」と半身を繰り出ているのが見えた。
「ヘビいた!」と思ってパッと視野を広げたとたん、穴という穴にヘビが「でろん」と出ているのに気づいた。一人で釣りをしてた時だったけれど、あれにはぎょっとした。実際びっくりしても声って出ない。誰かいたら、きゃーとかわーとか言うんだろうけど。
全部アオダイショウで。かなり気持ち悪い光景だった。
でろーんって感じで。
基本的におとなしいので襲いかかってはこない。パイプは数えてはいないけど、七、八匹はいたんじゃないか。は虫類には日光浴が必要。紫外線を浴びないと、ビタミンDを取ることができないんだとか。トカゲを飼ってたときに、やっぱり紫外線を当てなきゃいけないことを知って、あの「でろん」を思い出した。日差しを浴びて、終わったら簡単に引っ込める、ヘビにとっては便利な巣穴だったのかも。
24|
おはなし:半澤青空さん(山形県山形市 10代)
聞き書き:是恒さくら
森の方にある公園に散歩に行った。けっこう奥の方まで行ったら、石がいっぱい段々に積まれている場所があった。その奥が薄暗くなっていて気になったので、その石段を上がって行ったら、ヘビがニョロっと出てきて威嚇してきた。驚いて、走って逃げた。しばらくしてまた戻って行くと、そのヘビがしゅるしゅるっといなくなるところだった。「そこから先に行くな」とヘビが伝えていたのかも、と思って、結局その石段の先には行かなかった。
25|「ヘビと卵」
おはなし:伊藤利彦さん(山形県山形市 60代)
聞き書き:古田和子
私の家では鶏を飼ってるし、で、卵という美味しいものをねらってヘビがやって来るわけです。なんか鶏が騒いでいるなと行って見ると、産卵箱のなかにヘビがいたりとか。そこでガサゴソってすると卵を飲み込もうとしているヘビだったりとか。そんなことはもう、夏の風景っていうくらいあります。
ひとつの卵ってだいたい55~60グラムあるわけですよ。これぐらいあるわけですよね。で、あご外れるんですよ、ヘビって。だからあんなものが飲み込める。
そりゃ時間がかかるわけよ。ゆ~っくり、ゆ~っくりだから。で、あごをはずしたくらいじゃまだ通りが悪いから、唾液をいっぱいココのへんから出してくるわけですよ。こう。少しずつ。だから、ある意味でどろどろではないけれど、その中に少ーしずつ、少ーしずつ入っていくわけですよ。
何回ヘビの口の中に入った卵を取り出したか。一個の卵が口の中まで入っていったときには、10分近くかかるんですよ。だから、私から見つかったら大変なわけですよ、彼らも。うあ! まずい! 伊藤さんから見つかった! 10分間伊藤さんに見つからなければ食べられるの。まさか入ってしまったのを取り出すことは無理だからね。そりゃ取り出すのはやだよ。でも、貴重な卵だし。それに、そういうだめなことを何度も何度もしてたらだめなんだからねってヘビに思いながらやっていますね。
へびは好きではないですよ。でも、私たちが小さいころから「ヘビにいたずらしちゃだめだぞ」とずっと言われてきてて。何でかって言うと、ヘビは守り神と教えられてるわけですよ。だから、ヘビが出たら、いやだなって思うんだけど、よく来たなって言わなきゃいけないくらいなんです。
26|
おはなし:MIUさん(山形県上山市 20代)
今日、冬に使うマキを運びに山へ行きました。マキを積み上げているところに行って、トラックへマキを運んでいると、ヘビの抜け殻にでくわしました。とても長いヘビの抜け殻でした。
帰り道、運転していると、堂々と横断しているヘビにでくわしました。とても長いヘビです。
もしかすると、さっきの抜け殻の住人だったのでは、と考え家につきました。今日は宝くじを買おうと思います。
28|「庭とヘビ」
おはなし:設樂陽香(山形県山形市 20代)
聞き書き:古田和子
へび、庭にいます。庭のそっちこっちで、抜け殻をよくみるんですよ。最初に見つけたのは小学校低学年くらい。大きさは30cmくらいかな。もみじの枝にうりうりってねじれてついていたんです。庭にもみじの木があるんです。いっぱい種をつけるんですよ。その種が飛んで、いろんなとこから生えてきて。庭には、ぶあ~って石があるんですけど、石と石の間からちっちゃいもみじがニョキニョキと生えてきてました。うちの車庫と隣の家の間からも生えてきたりしましたね。車庫のもみじは150cmくらいあるんですけど、そのもみじの木によくヘビの抜け殻がありました。
抜け殻は、かわいかったです。気持ちは悪くないです。全然。色は、クリーム色というんですかね。半透明で、白く曇った感じ。曇った茶色かな。ぱりぱりしてました。壊れそうで、枝からすぐにひゅーっとはとれなかった。パリッパリッパリッて。途中で壊れながら枝からとりました。最後に見たのは高校のときかな。それ以降は見てないですね。いなくなっちゃったのかもしれないけど、自分が庭に出なくなっちゃったから気づかなくなっちゃったのかな。
見つける場所は、毎年違うんですよ。一番多かった場所は、縁側の下のじいちゃんの植木のいろんな土が置いてある上ですね。次に多かったのは、木の枝かな。変ですよね。なんで木の枝にぐるぐる巻いてたのかな。きっとかゆかったのかもしれませんね。かゆくて無理やり剥ぐ感じ。ウリウリって。
脱ぎにくいときは枝だったのかな。調子よく脱げるときはじいちゃんの土の上。そういうのは、あるかも。
抜け殻の主にも毎年会っていました。淡い毛並みのゴールデンレトリバーのような色で、金ではないけど、金に近いおめでたい風合いの色をしていたんです。でも、いままであったのが一匹の同じヘビだったかはわからないですね。実物は一匹ずつしか見たことないんですけど、しょっちゅう抜け殻を見ていたから、一匹だけじゃないんじゃないかな。抜け殻はずっととっておいて、正月のしめ飾りとか、おみくじを神社に焼いてもらうときに一緒に燃やしてもらっていました。
29|「へび談義(1)」
おはなし:Oさん(宮城県丸森町 男性80代)、Cさん(同 女性70代)、Kさん(同 女性90代)、Mさん(同 女性90代)、◎ 聞き手
聞き書き:庄司亮一
O「マムスが?」
◎「うん、マムシ」
O「おれホレ、穴さ入ってるマムス捕ろうどして、しっぽの方を引っぱったでば、あだまの方こっちさグリっとむいで、親指の付け根んとこバイーンと噛まれだの。一週間入院した。最初噛まれたところ口で吸って、毒だすべどおもって、そして川さ行ってすすいだんだ。んだげど、ダメでモコッと腫れできて、病院さ行ったの。そしたら、おれ大丈夫だって言ったのに、その医者にマムシはネズミ食ってるから、破傷風になっからって親指のどころ切きられで、そして注射12本も打たれだ。そんで帰ろうどしたら、まだだめだって入院させらったの、一週間」
M「あそこの医者ホレ、すぐ入院させるんだ、んで夜になると酒盛りすんだ」
O「んだ、飲んでんだ夜」
◎「患者ど?」
O「んだ、俺は飲まねがったど。よぐ、夜ご飯食うころ始まんだ」
C「あそこダメ」
M「そうそうすぐ入院させられだ」
◎「マムシの毒は噛まれてほっといたらだめなの?」
C「だめだめ、死んでしまう。死んだ人何人もいだよ。山形にバスで観光に行ったとき、トイレがまんできなくて、途中でおりて用をたしたら、ヘビがいて大事なところかまれた人がいてね、その人もしばらく入院した」
O「んでも、マムシはうまいんだ~コリコリして、噛めば噛むほど味でんだ、食ったごどねのが?」
◎「ないない」
O「どがだ(土建)さ行ってた時、よく焼いてくったけな~。皮むいで、首んとこくるくるとむいで、竹さ刺して」
K「生でも食うよ」
O「そうそう、食われんだ」
◎「え~生で!」
K「ヘビはね、卵でねーの、へびではいってんの」
◎「ん?」
K「あいづあれ、ヘビはなげねど(放らないと)、コッコ(子)で入ってからホレ、焼いで投げねど」
O「おれヘビにかまったとぎ(噛まれた時)、息子がコッコ入ってからって、焼いたんだ」
◎「なになに?」
O「ヘビのコッコ!」
◎「コッコ?」
K「まむしは、卵でねーの、ヘビで入ってんの」
◎「え? 卵じゃないの?」
K「んでね~マムシはね、透明な袋さ入ってヘビでてくんの」
◎「へ~はじめて聞いた!」
K「ヘビ子で入ってんの、袋さ、1匹ずつ」
◎「出てくるときは、ぐにゅぎゅにゅって出てくるの?」
M「ヘビのコッコ!」
K「おら見たどきは、7本入ってだ」
M「よくホラ焼酎の瓶に入れて置いておいたでしょ、その中でヘビの子生まれでいたの、5匹」
◎「それ、どうしたの!?」
M「ん~? その子供は成長して外さでて遊んであるくでしょう」
◎「いや、育てたの?」
M「うん」
◎「一升瓶の中で育てたの?」
M「んだよ、餌食べさせて」
◎「餌? 何やってたの?」
M「野菜とか」
◎「うそ~」
M「うそで~ねで、おっきぐなったんだもの。ヘビもね、何にも食わせらんねがら、なんだって食うの、雑穀でもなんでも」
◎「それ、緑色になったとか?」
M「何言ってんの、色はおなじよ」
◎「大きくなったのはどうしたの?」
M「食ったべした。病気の人がいる家にやったりしたの、食わせるといいからって」。
30|「へび談義(2)」
おはなし:Oさん(宮城県丸森町 男性80代)、Cさん(同 女性70代)、Kさん(同 女性90代)、Mさん(同 女性90代)、◎ 聞き手
聞き書き:庄司亮一さん
C「大内(地名)の山の中でヘビが跳んでるとこあんだよ」
◎「え? ヘビが跳ぶの? どこそれ」
C「とうげ(地名)」
◎「何で跳ぶの? 崖になってるとこ?」
C「田んぼの中」
O「俺は見たことねーなそんなの」
◎「何でだろ、カエルとか食べるのかな?」
C「なんかね、こっちで1匹跳ぶと、あっちの方で1匹跳ぶの、6月ごろよく見た。家のばあさんが言いってたのは、繁殖期の合図だから、それ見たらすぐに田んぼからでなさいって、ほんとだか知らないけど」
C「マムシは子供産むとき、人を噛むんだって」
M「振り返ってみても、あれペロコ、ペロコっているんだなや、そこ通らないんだ、おっかないから」
◎「マムシは卵で生まれてくるんではないっていうのははじめて聞いだな~」
K「このぐらい(5cm)で出てくんの」
◎「他のヘビは卵だもんね」
O「他のはそうだ、マムスだけは子ででてくるんだ」
◎「マムシは普通に食べてたの?」
C「朝草刈り行くとね、2本ぐらい取ってきてね、焼いて食うの」
◎「え、そんなに?」
O「食った、食った、うまいんだ」
K「うまい、うまい。何回も食った」
C「首のとこ切ってね、切れ目入れてね、スーッと皮をむくの」
C「んでね、首切って、皮むいでもね、しばらく動いてんの」
◎「げ!」
C「皮もね何かに使ったんだよね。何だったっけかな、いっぱい干してたんだよね、竹にさして」
O「んだ、干しった。あれ何したんだっけが、わかんねかい?」
K「皮はね~… 昔あれ~くづさぬらして~… ホレ… 霜焼けになった時と塗るの」
O「あ~んだんだ。壁さよく釘でさしてだ。効くんだあれ」
C「腹の肝はね、ペロっと飲むの」
◎「げ!」
C「飲むとね、3日ぐらい苦くなって何にも食べらんなくなるんだって」
O「おれ飲んだんだ、ペロ、ペロっと2回ぐらい。苦いんだ、うんと。んでも俺は普通に飯食ってだ」
◎「いやいや~」
K「マムシはうまいんだよ、ウナギ焼くようにして焼くの」
O「あんべいんだうんと!」
C「昔はね、丈夫になるからって食わせたの、子供には粉にしてね」
C「昔は、マムシ捕って売ったでしょ。よく捕りに来る人いたよね。30年ぐらい前で5000円ぐらいだったけな。焼酎につけてね」
O「俺も売ったこどある、3000円で」
◎「焼酎につけたやつはどうするの?」
C「傷や何かにつけるんだよね」
K「食あたりしたときは飲んだんだ」
K「いま、昔みでに、マムシいねんだよね」
C「シマヘビはすこしいるかな」
O「スズナメラ」
◎「アオダイショウ?」
C「イノシシが食っちまうんだよね」
K「シマヘビは木登りするのなや」
O「俺の息子なんて、ヘビおっかなくて、やんだっつんだ。何だ男がヘビおっかながるなんて、生で食っつまえっつんだ!」
C「姿みるとやんだね。洗濯物干してたとき、竿に絡まってたことあってね、やだったね、シマヘビね」
M「ゴンニャゴンニャって」
O「あれは、ツバメ来ると、ねらって高いところさいくんだ」
C「うちの嫁さんもね、嫌いだから煙草すいがら庭に撒いたりしてね、家の周りによってこないように。のぼるよね、シマヘビは。うちで蚕やってだでしょ、天井とかにね、抜け殻とかよくあったね」
◎「アオダイショウは噛まないんでしょ?」
C「噛まない、かかってきたりはしない。家を守るって言うのね、おっきくなるんだ~、縁の下とかにいるんだよね」
K「ものおぎにいるんだい」
O「ん~でも鶏は食うんだ」
◎「たまごを食べるんでしょ?」
O「鶏も食うべした!あだまだけ」
◎「は?!」
O「鶏小屋さ行ったでば、首もげった(首がなくなってた)の、3羽」
◎「え~?」
C「私もみだごどある、首に巻きつくんだよね」
O「そうそう、何だや~雄鶏鳴くな~って、行ってみだらぐるぐる巻きついで、雌鶏3びきやらってだの」
◎「へ~?全部は食べないんだ」
「首だけ、ポツっともげったの、首がら上だけ食うの」
O「おれ、マムシに噛まれたとき、マムシの首は鎌で落として病院に行ったんだ。んだけど、息子が叔母にヘビ子のなすから(産まれるから)焼いておけって言われで焼いたんだど。んで、息子はヘビ嫌いだから、焼いてから畑げさ放ったんだ。食えばいがったのに!」。
K「そしたら、焼いたんだけど、そのヘビの腹の中の子、死んでねかったの」。(KさんはOさんの叔母)
◎「え!」
K「畑で育ってだの、子、7本入っていで、2本でてきたの、5本は死んでだの、んでも2本でてきたの」
◎「え~!! 焼いだのに!」
K「そう、袋さ入ってだの焼けなかったの2本。5本は焼けったの。焼いてから土さ埋めてたでしょ、そいづ土の中で育ってだの、おらいのじーちゃんめっけだの」
C「そう、そう、死なないのね。焼いて食べるとき内臓とか捨てるでしょ、その中にヘビ子が入っていて、そいづ死なないで土の中で育って出てくんのよ。んだがらマムシ食うど丈夫になるんだよね~」
31|「おばけ卵と妊婦のヘビ」
おはなし:横山みちこさん(山形県小国町 70代)
聞き書き:荒川由衣
私娘の頃さ、仕事に頼まれていって昔だから看板立てるとこに工事に来て、ブナ材とか出したりした時に今みたいにちょんとハウス持ってきてポンと置いて事務所だのご飯食べる所だの作れない時代は、みな木切ってきて、茅葺の小屋たてて仕事場の人たちとかしたもんだもの。ごはん食べたりするとこ。私なんか娘の頃だから(昭和)28、9年の頃だよね。28年の春卒業だから中学。卒業後。そこの平らなとこに茅かって、で、茅はもちろん屋根にするし、平らに作ってする時に、真っ白な卵を拾ったんですよ。それがヘビの卵。茅刈ってたら草の中にあったの。「あれ、なんだろこれ」と思ってキュッと絞ったら、そうしたら目のおっきいこれぐらいのものがあちこちから飛び出してきたの。いや~びっくりして「ぅわ~~!」っと投げてやったけど。なんだと思うでしょ、まっしろいこんな。柔らかかったかどうだか。絞ったから、割れるようなもんじゃないんだけど、そんな固いんじゃないんだけど。なんだろこれってギュっとやったらね、目だけギロッとでっかいのよ。あちこちの穴から。ほら、蜂の巣だってそうでしょ、あちこちから穴あってそこから出てくるでしょ、そういう式の。何匹も。こーれは…びっくりした! それこそおばけのQ太郎みたいなのに目だけでっかいのが。きーもちわるい! それ、一か所じゃないんだもの、あちこちからさ、3、4か所からそんなのがこんな飛び出してくるんだもの!
で、マムシの場合は、入ってんの。子になってお腹に。ヒョロヒョロ何匹も入ってる、6匹も8匹も入ってんのもいる。棒切れで叩(はた)くんだけど皮は剥けないから、じいちゃんに剥いてもらったら、1匹は8匹でてきた。箸みたいな、子どもの箸のぐらいの短いのが。もう1匹は6匹。お産の時期ってどれもこれもみなおんなじでしょ、お盆すぎだな、8月の終わり頃だな。続けて2本獲ったらね、6匹と8匹入ってた。んで私、よもぎの長いのでちょんちょんと頭やったらさ、バッ! と口あくんだよ。本能。産まれるときからそれ、たぶんあれだって毒あるんじゃないかなと思ったっけ。こういうのでツンツンとつっついたらね、バッと口開くんだよ、今腹から出されたばっかのがさ。長さはみなおんなじようなもんだけどでかかったの。そうだよ、それだけ入ってるんだからね。トカゲでもなんでも畑掘るといるけどみんな卵だもん、白い卵。マムシは妊婦さんみたいの。そしてほら、焼酎に漬けて傷薬なんかに使うように瓶に入れておくとね、ネズミでも飲んでるのかなぁと思ってお腹でっかいから。ビンに入れといたら、中で子が泳いでる。そういうこともあった。